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IUCr2023 参加記
1 September 2023
オーストラリア・メルボルンで開催された国際結晶学連合の大会(IUCr2023)に参加しました。結晶学の学会ですが、逆空間や散乱に限らず、結晶を取り扱う人が幅広く参加している印象です。
参加申し込み
私はもともとはIUCr2023に参加しないつもりだったのでぼーっとしていましたが、3月くらいにポスターの再募集があり、ぼちぼちB4〜M1の成果を出すかという気分になったので、参加することにしました。そのころ、いろいろな結晶に関わる研究に対する興味が高まっていて、幅広い人の参加する学会に出たいという気持ちがあったように思います。要旨は5月末締め切りでした。
結晶学会の助成
私は日本結晶学会の学生会員なのですが、今回IUCr2023に参加する若手に対して、リガクファンドを原資として10万円を助成するという事業がありました。応募し、ありがたいことに採択いただきました。6月上旬に締め切り、7月に通知だったと記憶しています。助成金は直接個人の口座に振り込みで、残りを科研費で支援していただく、という形で渡航することになりました。改めて感謝申し上げます。
飛行機
実は海外に行くのが初めてで、いまいち勝手がわからなかったのですが、Googleで調べて安かった飛行機をとりました。シンガポール航空(シンガポール経由)で、往復11万円いかない、くらいでした。周りの人の話を聞くと、けっこう良いチケットが取れていたようです。ごはんとかは美味しかったです。シンガポールでのtransitは7時間〜9時間と長かったですが、むしろ、街中を散歩したり、お土産を買ったり、ばったり知り合いに会ったりと楽しく過ごせたので、個人的にはまったく気になりませんでした。
宿泊
会場から少し離れたところにAirbnbでアパートメントを借りました。いまの研究室出身の先輩と2人でシェアルームで、ざっくり1泊7000円くらい。ホテルの相場的にはとても安く抑えられたのでありがたかったです。トラムを使って15分くらいのところで、そこまで遠いとは思いませんでした。キッチン付きで、自炊もいくらかしましたが、なんだかんだで連れ立って外食、というパターンが多かったです。
Pre-Congress Workshop
IUCrでは学会の始まる前に数日ワークショップやスクールが開催されます。メインのウェブサイトに載っているのはワークショップですが、そのほかにももう少し長めのスクールもあるようです。私は、開会前日にdiffuse scatteringのワークショップ、開会当日にRMCProfile(これもdiffuse scatteringを解析するソフト)のワークショップに参加しました。どちらもOak Ridgeの中性子回折チームが主催していました。回折チームトップのMattとたくさん話せたのは嬉しかったです。国際学会に来た感じがしました。
研究発表
研究発表はoralとposterに、oralはさらにinvited (30 min)とcontributed (20 min)に分かれます。Posterに関しては掲出できるのが2日間、あてがわれた時間は各日1時間で、どちらかの日にポスターの前で説明するように言われていましたが、休み時間にはみ出したり、両日ポスター前にいたりする人もそれなりにいました。私もポスターでしたが、いわゆる正規の時間では混みすぎていて説明しきれない感じはしました。
発表を聞くのは総じて楽しかった。その一言に尽きます。私は物理化学のフィールドで中性子回折、というアイデンティティですが、物理も化学も生物も地球科学も、行きさえすれば聞けるというごちゃまぜの場所が一番楽しいです。そこに自分の研究へのアイデアもごろごろ転がっています。楽しかった。以下、記憶に残っている発表の感想です。
Kiyofumi Takaba. Complementary use of electron and X-ray microcrystallography to reveal quantum structural information of organic molecules.
理研の構造生物グループ・高場さんの発表。3月にNature Chemistryにでた仕事がメインで、XFELにおけるserial crystallographyと、3D EDにおいて、電子密度・クーロンポテンシャル分布の定量的な比較から、各原子上の電荷などの情報を定量的に引き出すという議論です。論文読んだときにも面白かったですが、さらに理論計算を絡めた発展まで言及されていて、とても興味深かったです。Y. P. Zhang. Machine learning assisted reverse Monte Carlo modeling for neutron total scattering data.
Oak Ridgeの中性子散乱チームのZhangさんの発表。RMCProfileの次のバージョンに機械学習ポテンシャルを実装するという話で、PDFのフィッティングだけでは不確かさが残る場合に、よりエネルギーの低い構造を優先的に取るように制約できる。LAMMPSのモジュールで実装されているのがとても優れていて、LAMMPSで実装できる形のポテンシャルであればどんなポテンシャルも使える。LAMMPSのコミュニティの広さや柔軟性の高さが良い、とのことです。Chloe A. Fuller. Unravelling the components of diffuse scattering using deep learning.
ESRFのスイスビームラインチームのFullerさんの発表で、deep leraningを使って散漫散乱パターンの解釈や予測をするという話。理論的に計算した3D-ΔPDFを大量に学習させて、モデルなしに実験データを解釈するらしい。学習パートは正直よくわからなかったですが、見ていて面白かったです。Kenichi Kato. Pushing the limits of total scattering by Compton-free measurements.
理研の放射光チームの加藤さんのポスターで、SPring-8 BL44B2における全散乱測定の技術開発の報告。エネルギー分解能のある検出器で試料を囲うことで、広角側でシビアになるコンプトン散乱の寄与を取り除いて、純粋な弾性散乱パターンのみを取り出せる、という内容でした。コンプトン散乱が全体の散乱に対してどれくらいの寄与を占めているか、というグラフがあったのですが、そのグラフを定量的に描けるのがまず面白かったです。Stefano Canossa. Intrinsic disorder in metal–organic frameworks: an untapped resource for reticular design
Max-PlanckのポスドクであるStefanoとはTwitterで以前から知り合いで、ようやく会えたのが嬉しかったです。彼はWeb上でデザインとして完成された結晶学のグラフィックを公開しているので、是非一度見てみてください、とても美しくて見入ってしまいます(Instagramもあります、Instagramにふさわしいグラフィックに思います)。本業(?)はX線を用いた散漫散乱の解析によるMOFなどの有機構造体のディスオーダーの研究で、今回は、今年JACSに出版されたZr-based MOFの局所構造解析の内容を発表していました。ポスターも綺麗。Geun Woo Lee. Hidden pathways of crystallization on H2O at room temperature.
dDACを用いた高速圧縮による氷の結晶成長の論文(e.g. Kim+, PNAS, 2019. https://pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1818122116)などを出しているLeeさんの口頭発表でしたが、以前とは全く違う内容を発表されていました。まだpublishされていないので詳細は控えますが、以前は光学顕微鏡とラマン散乱が中心だったのに対し、今回はXFELを用いてさらに具体的な構造の議論をしていました。その過程で、どうやら新しい相が見つかったようです。Leeさんは私のポスターにも来てくださり、双方の研究についてより細かい議論もできました。またお話ししたいです。Thomas C. Nicholas. Structural complexity in amorphous calcium carbonate.
PresenterのThomasはOxfordのPhD学生で、実験と理論計算のちょうど真ん中を行くような面白い研究をしている方です。今回はアモルファス炭酸カルシウムの準安定性の起源に着目し、ポテンシャルを併用したハイブリッドRMCフィッティングによって、ACCの原子座標モデルの構築を試みていました。カーボネートを介してCaがinteractするモデルはacceptableかと思いましたが、その過程でのポテンシャルの議論はわからない部分もありました。arXivプレプリントが出ているので、もう少し読んでみようと思います。Matthew R. Rowles. Quantitative phase analysis in complex (and not so complex) mineralogical systems.
Curtin Universityのx線回折のテクニシャンであるMatthewのプレゼンです。彼ともTwitterで以前から知り合いで、何度かDMのやりとりもして気にかけてくれていました。プレゼンは鉱物の粉末試料において、混合相の定量を行うという非常に基本的な内容ですが、"What all crystallographers should know about powder diffraction"というセッション名に相応しく、改めて聞いても面白かったです。特にproffered orientation correctionをどう入れるかというパートが面白く、後日さらに個人的に会ってより詳しいTopasの使い方を教えてもらいました。鉱物に関しては、データベースでcleavage planesを見て、その方向の選択配向をrefineするのが基本ですが、その際に妥当な値がどれくらいか、などプラクティカルな事柄を教えてもらいました。X線回折室のスタッフとあって、日頃から様々なサポートをしているのでしょう、とても親切で良い人です。Helen Maynard-Casely. What you can, and can’t do with in situ powder diffraction.
HelenはANSTOのWombatビームラインを基軸とする研究者で、私の指導教員の小松さんとエジンバラ大学で同じ研究室にいた縁で、以前からTwitterなどで知っていましたが、今回ようやく会うことができました。その場での中性子粉末回折について、主に低温実験の結果をいくつか見せていました。それ自体もなかなかの面白さでしたが、どのようにして生データを公開していくか、という話が面白かったです。現状のCheckCIFは、単結晶回折に偏っている部分があって、粉末では決められないパラメータについてもErrorを出してきます。そこでPowder CIF (pd_CIF)という形式が以前から提案されていますが(Toby et al., 2003, Appl. Cryst., CIF applications. XIV. Reporting of Rietveld results using pdCIF: GSAS2CIF; Using the GSAS2CIF program to export GSAS results)、プレゼンでは、その他にCIFではない形式で生データ(2theta, diffraction intensity, and temperatureの3次元情報)をデポジットした例なども紹介されていました。終わった後、checkCIFに"Is powder diffraction"のチェックボックスがほしいね、と話していました。Hoi Ri Moon. Strategic Approaches to Developing MOFs with Novel Characteristics.
Moonさんは異なる種類のMOFを組み合わせた結晶のデザインの達人で、Keynoteということでレビュー的な話し方で、大変面白く聞きました。最初の仕事は結晶成長の制御により立方体や八面体の形に成長させたHKUST-1と呼ばれるMOF(私は当然知りませんが……)を核として、その外側にMOF-5を成長させることで、core-shell MOFを作るというものでした。内側のMOFは青色な一方、外側は透明なので、見た目が非常に美しく、見ていて飽きない結晶です。その他にも、結晶面間隔があまり合っていないMOFでも、片方にflexibilityがあればMOF@MOFが作れる例(たとえば、Ha et al., 2023, Nanoscale Advances. "Effect of steric hindrance on the interfacial connection of MOF-on-MOF architectures")、2D-MOF@3D-MOFの例などが紹介されていました。理論計算によって、膨大な数のMOFの組み合わせの中から、良い組み合わせを探して実験している(例えば、Kwon et al., 2019, Nature Communications. "Computer-aided discovery of connected metal-organic frameworks")ということで、とても戦略的に結晶をデザインすることができるのだと知り、興味深かったです。Wei-Tin Chen. Crystal structure evolution in mercury containing quadruple perovskites.
Wei-Tinも小松さんのEdinburgh時代の知り合いで、以前からSNSで知り合いでした。Pre-congress workshopの朝にたまたま見かけて話して以降、何度かバーにも一緒に行くなど仲良くしてもらいました。電荷秩序はじめペロブスカイト の鉄板ともいえるManganite 型 AMn7O12について、これまでも良い仕事を出されていますが(例えば、Wei-Tin Chen et al., 2021, Nature Communications, "Striping of orbital-order with charge-disorder in optimally doped manganites")、今回はA=Hgとしたものを高温高圧で合成し、その構造を調べた仕事です。低温での相転移など、いくつかのpreliminaryな結果を報告しており面白かったですが、相転移の機構解明にはもう少し実験が必要そうでした。Hiroshi Abe. Crystal polymorphs and multiple pathways of phase transitions in ionic liquids.
イオン液体の低温および高圧の相転移の仕事で、私には素性はあまり分かりませんでしたが1-alkyl-3-methylimidazolium, [Cnmim]+の相転移の報告でした。低温・高圧それぞれが部分的に不可逆的な、また複雑な多段階の相転移をするという内容で、非常に面白かったです。 [Cnmim]+の"n"が側鎖のアルキル基の長さを表すらしいですが、それによって結晶化の描像もだいぶ異なるということも教えていただきました。もうすこしきちんと構造を理解してみたいと思ったので、論文をあたってみようと思います。Adam Corrao. Morphological reconstruction from powder diffraction data.
AdamはStony BookのPhD学生で(とても学生とは思えない発表、調べるまで知らなかった)、粉末回折パターンからのmicrostrcuture (microstrain)の情報抽出についての発表でした。single-peak fitting (Williamson-Hallなど)は、定量的に構造情報を議論することが難しく、かつ、太っていてフィッティングか困難な場合には適用できませんが、代わりにwhole-pattern fittingのデモンストレーションとして、WPF-IPxという手法を用いた分析結果を紹介していました。まだうまくはまった系にのみ適用可能かな、という印象は受けましたが、興味深いです。Claire C. Zurkowski. Using synchrotron multigrain X-ray diffraction techniques to determine iron-alloy phase relations at Earth and planetary core conditions.
Claireは高温高圧DACを用いた地球深部物質学のポスドクで、最近は、Fe-OやFe-S系の高圧多形に関する良い仕事を数多く出版しています(例えば、"Synthesis and Stability of an Eight-Coordinated Fe3O4 High-Pressure Phase: Implications for the Mantle Structure of Super-Earths" JGR Planets, 2022, "The crystal structure of Fe2S at 90 GPa based on single-crystal X-ray diffraction techniques", Am. Min., 2022)。まず、出している論文の本数と質がすごくて、とても尊敬している若手です。今回は最近のFe共存下でのFe3SおよびFe2系の実験から明らかになった相図をレビュー的に話していました。高温実験ですとどうしても粒成長の効果で綺麗な粉末が得られることが少ないですが、それを逆手に取り、スポッティなパターンを多数の結晶でUB付けし、単結晶として解くという"multigrain crystallography"によって、未知の多形を含む網羅的な研究を紹介していました。引き込まれました。
後半では最近やっているDAC開発についての紹介もあり、300 GPaまでを安定して(これが重要)出すための工夫を紹介していました。このセルでの研究成果も楽しみにしています。Krzysztof Wozniak. Accurate crystal structures of ices from X-ray and ED with Hirshfeld atom refinement.
去年出たice VIのDAC中での単結晶X線回折をHARで解析した結果(Chodkiewicz et al., IUCrJ, 2022)に加え、ice VIIについても同様のデータを紹介し、中性子回折による構造モデルと比較して、水素の位置が非常によく決められるということを紹介していました。時間がなく聞けなかったのですが、酸素の分布についてもanisotropicな分布が見えており、かつこれが中性子で決められたものとは少し異なっているように見えました。その理由や解釈が気になっています。来週、また別の会議で会えると思うので、そこで聞いてみようと思います。Masato Okawachi. Development of automated XRD and Raman measurement and analysis system for fully automated characterization of multiphase materials.
大阪大の小野先生のところの学生さんの大川内さんの発表。Rietveld解析をいかに自動でやらせるかという以前の仕事(Ozaki et al., 2020, npj. Comp. Mat. "Automated crystal structure analysis based on blackbox optimisation")はかなり印象的でよく覚えていますが、解析だけではなく実験の方の自動化にも取り組まれていることを初めて知りました。ラマン分光とXRDを文字通り相補的に使い、複数の結晶相が混在するような試料の分析を行っていました。ここからどのようにautonomousな実験室へと発展していくのか楽しみです。Haruka Kubo. Deciphering the Effect of Pore Size on Transformation of Hydrogenbonded Organic Frameworks.
ふらふらポスターを見ていたらTwitterでつながってますよねと声をかけてもらいました(アカウントは前日にたまたま見つけたのですが、すごいね)。そのときは実は隣のポスターを見ていたんですが、HOFにおけるhost-guest interactionの研究で、面白かったです。温度を変えると一部のゲスト分子が抜けて、水素結合ネットワークの組み替えが起こるのですが、水素結合の柔軟性(たぶん?)により、単結晶単結晶転移させることができ、構造解析できるというふうに解釈しました(cf. H. Kubo et al., 2021, Chem. Commun. "Quasi Single-crystalline Transformation of Porous Frameworks Accompanied with Interlayer Rearrangements of Hydrogen Bonds")。これだけ大きな有機構造体がきれいに構造をswitchingさせられるという事実には、何度聞いても驚くべきものがあります。ポスター賞おめでとうございます、構造のillustrationが明快で、私のような馴染みない聴衆にも分かりやすかったです。Marcus Miljak. Portable Energy Dispersive X-ray Diffraction Analyser for Lunar Applications.
ラボソースの光源を使い、持ち運びのできるエネルギー分散型のXRDを開発している研究室からの分析ソフトの発表でした。ちょっと多数派の結晶学と違うのは、将来探査機に載せて宇宙での結晶相の定量に使うという目標があるため、Rietveld解析などはターゲットにしておらず、むしろ、いかに少ないデータから定量を取るかというところに焦点を置いていました。しかし、ふつうにパターン綺麗でしたよ……。Alan Salek. Characterisation of carbon phases in ureilite meteorites using electron microscopy
Shock-formed diamondな見た目をしていましたが、実際にはshockプロセスそのものではなく、衝撃圧縮後のエネルギー解放がどれくらいゆっくり進むかに着目し、それによって相が変わる、という話でした(cf. Tomkins et al., 2022, PNAS, "Sequential Lonsdaleite to Diamond Formation in Ureilite Meteorites via In Situ Chemical Fluid/Vapor Deposition")。AlanはTEM観察の担当だそうです。好青年で、Museumの鉱物の展示でも会って話しました。Hajime Ito. Mechanically Induced Structural Transformations in Luminescent Gold Complexes
北大の伊藤先生の講演で、これまで全く研究を知らなかったのでreview的に聞きました。金錯体で、こすると色が変わるということを偶然見つけて始まったという研究プロジェクトでしたが、その擦った結晶相の構造を解くと、もともとなかった金-金相互作用が生まれていて、これで電子物性が大きく変わっているというのが面白かったです。その後、刺激を与えた後の種結晶を、もとの結晶の上に置くだけで、じわじわと構造変換が進行して最後にはこすっていないのに全て「擦った後」の結晶になるという内容でした。すごい。Natalia Sacharczuk. Conformational conversion in compressed diethyl ether
Diethiyetherは有機化学実験おなじみの溶媒でしょうが、回転自由度が高いのでその結晶多形が存在するのではないかというのは頷けます。実際にたくさんの多形があるという報告で、冷却して得られる結晶αのほかに、その加圧により1.5 GPa以上でβ、2.5 GPa以上でγ、そして2.8 GPa以上でδという相が出てくるそうです。これらの高圧相はいずれも新しく報告された結晶ということで、シンプルな分子性結晶でも奥が深いと感じさせられます。分子構造は、α、β、γはいずれもtrans-transで、パッキング構造が少しずつ異なるため、分子間相互作用のチャンネルが異なります。そひてδではtrans-gaucheの構造になるというのが面白く、高圧では有機化学的に不利なコンフォメーションでも取れる(取らざるを得ない)というのが、分子科学の観点からは面白いなと思います。
ポスター、もっとメモを取っておけばよかったです。
企業ブース
エキシビジョンホールでは各企業のブースが並んでおり、いろいろと回ってお話を聞くのが楽しかったです。特に、知らなかった企業の製品などを知るにはもってこいの場所です。 印象に残っているところをいくつか紹介します。
MiTeGen
MiTeGenはアメリカの企業で、主にクライオXRD・EDによる構造生物学の研究者をターゲットとした企業です。クライオでサンプルを取り扱う技術は私もとても興味があり、いろいろと道具を見せていただきました。これもってっていいよ〜と、クライオXRD用のサンプルホルダーをもらいました。なんでもないような一つ一つの道具にちょっとした工夫があり、そういう工夫を引き出しとしてたくさん知っていると、自分で道具を作るときに役に立つんですよね。Eldico Scientific
Eldicoはスイスの電子回折計の企業で、IUCr2023もBruker, Rigakuと並んでDiamond Sponsorとかなり大手ですが、一度も製品を見たことがなかったのでブースで詳しく話を聞きました。彼らの電子回折計は、いわゆるイメージングも回折も取れる電顕とは違い、横向きに電子線を照射して後ろ側の検出器で取る、という、XRDに似たジオメトリーであることが特徴です。レンズが少なく、クリーンな光学系であることが売りということでした。まだシェアは大きくはないようですが、既にいくつかの導入実績もあり、ウェブサイトにはこれまで解かれた有機結晶の紹介などもあります。測定してみたいからサンプル送ってくれないか?と言われました、すごい営業だ。Anton Paar
総合分析機器メーカーであるAnton Paarでは、SAXSとNon-ambient XRDのガイドブック(とペンとチョコレート)を配っていたので、ありがたくいただきました。Non-ambient XRDは低温でのin-situ測定がメインですが、案外、こういう観点で網羅的に、かつ読みやすい分量で書かれている教科書ってないので、ありがたいですよね。会期中にもらったペンの中ではこれが一番書きやすかったです。
パーティ
最後の方にMelbourne Museumでのナイトパーティがありましたが、終始音楽の音量が大きすぎて会話もままならない感じでした。せっかくいろいろな人が集まる機会なだけに、これは残念でした。本会場がうるさかったので、展示の方に回り、小松さんから鉱物レクチャーを受けました。楽しかったです。その後、それぞれISIS, Oak Ridge, ANSTOのCraig, Malcom, Helenと少し喋りました。特に、Craigとは対面かつパーティのような場でしか話せないような話ができたので良かったです。
ちなみに他にも、会期中にRigakuやDECTRIS主催のパーティがあったようです。私は他の参加者のTwitterなど見て知りましたが、企業ブースで案内があったのかもしれません。
英語
英語は非常に壁を感じました。日本にいるとだいぶ英語は得意な方なのですが、まず全然聞き取れない。ネイティブの発話は当然ながらとても速いです。最初の数日は全然聞き取れず、だんだん聞こえるようになるという感じでした。スピーキングはまだまだ言いたいことが全然出てこないという感じで、こちらもかなり壁を感じましたが、ネイティブに聞き返されることは一度もなかったので、一定以上は伝わっていたと信じたいです。ただ、授業や論文など、基本的にアカデミックなインプットは全て英語なので、英語でのディスカッション自体は日本語よりずっと自然に感じました。日本の大学の環境に満足せず、英語の勉強も頑張っていきたいです。良い経験になりました。
おわり
今回のIUCrでは、日本からの参加者が、ホスト国オーストラリアに次いで2番目に多かったそうです。日本の結晶学会より日本の方を見かけた気がしました。いろいろな分野の方と話せる場が楽しいので、IUCrはとても楽しかったです。お付き合いいただいた方々、どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いします!